PMSにはここがたりないのでは? ① フロント精算の場面
亜欧堂はホテルシステム(PMS:Property Management System)導入支援を行っており、現在日本国内で流通している主要なPMSの機能はおおよそ把握しています。
また、レベニュー・マネジメント導入支援や業務効率改善支援の過程で現場に伺うことも多く、基本的なオペレーションも把握しています。
その中で、複数あるPMS各社にほぼ共通して「これが足りない(あるいは普及していない)のでは?」と思っているものを挙げみたいと思います。
これは細かなことですが、生産性向上を図るには避けられないものばかりです。
ぜひ経営者やマネジメントレベルの方に読んでいただき、
まずは問題点を認識していただければと思っています。
PMSの改善の協力の必要があればご連絡ください。
当方の把握違いのご指摘もぜひお願いいたします。
PMSベンダーの方からのご連絡で、機能が確認できましたら紹介できればと存じます。
さて、初回はフロント精算で不足している機能についてです。
フロントでの精算種別は多岐にわたる
フロントで対応すべき精算種別(支払い方法)がいくつあるかご存知でしょうか?
- 現金
- クレジットカード
- 売掛
- 事前カード決済
- ポイント精算
- クーポン・バウチャー
- その他
主なものだけで上記6種類です。そしてこの全てにPMSは機能的な不足があるのです。
現金精算は請求金額・お釣りがわからない
クレディセゾン社の決算資料によると2016年の現金決済比率は49.0%とのこと。
いずれキャッシュレス化が進むと思われますが、
現金精算はまだまだ日本国内では主流な精算方法です。
さて、ビジネスホテルのフロントで電卓に請求金額を打ち込んで見せている場面を見かけないでしょうか?
これがコンビニやスーパーであれば請求金額はPOSレジの一部に表示されています。
しかしPMSに精算金額をお客様に通知する機能がなく、
スタッフが手作業で電卓に打ち込みそれをお客様に見せているわけです。
そして、現金をいただいた後の釣り銭の表示機能もありません。
電卓を使う理由のひとつはこれで、電卓でお釣りを計算しているのです。
「自動釣り銭機」を導入することで、釣り銭の取り間違いは防ぐことが可能です。
しかし、精算金額を通知するシステムは把握できておりません。
クレジットカード
クレジットカード精算も、
コンビニなどであればPOSレジにクレジットカード決済端末(CAT)が内蔵されており、POSで打ち込んだ金額が自動的にCATに連動し、
CATが読み込んだカード会社情報をPOSに連動させることができます。
しかしホテルのフロントでは、
CATにもう一度カード決済金額を入力し、
CATから出力された請求先カード会社情報をPMSに打ち込む必要があります。
実はPMSとCATの連動は少なくとも20年程度前の京都のホテルで実現した事例があり、技術的には確立しているにも関わらず、です。
生産性向上に重要にも関わらず、PMSのCAT連動は普及していない機能の代表例です。
ところでカード実物に表示されているカードのブランド名と、
実際に売掛を請求するカード会社が異なることが多いのはご存知でしょうか?
これはホテルとカード会社の契約により、
直接契約のないカードをお客様が使用したとしても、
契約のあるカード会社が代行して受け付けてくれるためです。(概要的な説明です)
このおかげで「使えないカードがある」という状態にはならずにすみます。
一方で、売掛先カード会社の選択ミスという可能性がどうしても増えてしまいます。
その結果、経理側でPMSに登録されたカード会社と、
実際に請求すべきカード会社が合致しているかを確認する必要があるのです。
売掛
売掛とは、後日請求書をお客様に送付し振り込んでいただくことです。
主に企業契約や団体利用で発生しますが、稀に個人にも許可しているホテルがあります。
売掛は、例えば先方が倒産するなど「回収できない」というリスクがあります。
そこで「売掛しても良いか」という判断を事前に会社レベルで行う必要があります。
売掛しても良いということになれば、
PMSに売掛の可否が判断できるコード(売掛番号など)を設定する必要があります。
つまり、売掛を行うには事前の準備が必要なのです。
事前カード決済
事前カード決済とは、
OTA(Online Travel Agent:WEBの旅行代理店)または自社サイトの予約で、
予約の時点でカード決済が済んでいる(またはチェックアウト時点で精算される)ため、
ホテル側から見るとOTA各社への売掛で良い、ということになります。
ここでややこしいのはOTAから入ってきた予約が
「OTAに請求すべきものか」
「その場でお客様に請求すべきものか」
の判断をフロントスタッフが行わなければならない、という点です。
何かしらフィールドを使って「精算種別」を表示する機能があるPMSもありますが、
そもそもそのフィールドが「手入力」になっている場合も多く、
精算種別を明確にする為、チェックインまでの「準備作業」が煩雑になるのです。
仮にそのフィールドが正しく設定されていたとしても、
フロントが精算を行う際に「事前に設定された精算種別しか選べない」という機能は、
ほとんどのPMSが対応していません。
ポイント精算
ポイント精算とは、
OTA各社が消費者に提供しているポイントを支払いに充てることです。
これがややこしいのは「精算の一部にポイントを使うお客様が多い」という点です。
例えば10,000円(諸税サービス料含む)で予約を受け付けた際に「800円分だけポイントを使う」ことができます。
するとフロントでは、
「お客様に9,200円をいただく」
「800円をOTAに請求する」
と2回の作業を行う必要が生じます。
問題は「800円OTAにもらう」とポイント精算を自動的には処理しないPMSがあることです。これもチェックイン前の事前準備に手間がかかることになります。
また、間違いが多い作業でもありますので、
お客様との精算の際に、再度確認業務を行っているフロントも珍しくありません。
クーポン・バウチャー
クーポン・バウチャーはAGT(旅行代理店)からのお客様との精算に使用します。
同じものと考えられることが多いのですが、本来は異なるものです。
□ クーポン
本来の意味では「切り離しができる切符や割引券」のことですが、
ホテル業においての本来の意味はAGTの発行する現金同等物です。
最近はバウチャーに移行されてきておりあまり見かけません。
□ バウチャー
「予約の証明書」と考えていただいて結構です。
予約の内容が明記されている案内書のようなものです。
クーポン・バウチャー精算は、結局のところはAGTへの売掛です。
ここでの問題は、経理処理が難しくなる点です。
J社など一部のAGTは2泊の予約であっても予約を1泊ずつ通知してきます。
当然PMSへ自動取り込みされた予約は1泊ずつ別々のものになります。
そこでお客さまの利便性を考えて別々の予約を1つにまとめる「結合」を行います。
しかし、売掛の入金時に経理が消し込み作業をしようとすると、
PMSのデータと(例:2泊20,000円)とAGTからの入金データ(例:1泊14,000円、1泊6,000円)とで異なるために、確認作業が煩雑になってしまうのです。
これはPMSの問題というより、
本来はホテルがの実態処理に合わせた予約データをAGTが提供すれば解決します。
しかしこのAGTの例に限らず、
1泊目はOTA A社、2泊めはOTA B社と予約を分けるお客様も増えてきているようです。別々の予約を1つの予約としてまとめる機能がPMSにあれば解消できそうです。
欲しい機能をまとめると
- 現金
- 請求金額を通知する機能
- 自動釣り銭機
- クレジットカード
- PMS<>CAT連動
- 売掛
- 売掛許可申請のシステムをPMSに内包または連動
- 事前カード決済
- 精算種別の取り込み
- 指定された精算方法が精算時の精算方法として自動的に選択される
- ポイント精算
- ポイント精算の自動化
- クーポン・バウチャー
- 1泊ずつの予約をまとめる機能(それぞれの予約は残した上で連泊として扱える)
抜本的な解決方法は別にある
いかがでしょうか?
これだけ煩雑であれば覚えるのも大変ですし、当然処理のミスも起きやすいのです。
それぞれに対応した機能がPMSにあれば良いのですが。
ですが、本来はもっと良い抜本的な解決方法があります。
それはまたいずれ、説明させていただければと思っています。