宴会レベニュー・マネジメントの指標 ConPAST
亜欧堂でも2013年より本格的に宴会RMの実務的開発をタイプの異なる2つのホテルチェーンと共同で行っており、これとは別に宴会RMに必要となるデータ収集のプロセスを組み立てたプロジェクト(内部プロセスの改善及び宴会システムの改修)などと合わせると非常に実用的なノウハウが集積されてきています。
RMは「需要を基に 販売を調整することで 収益の拡大を目指す 体系的な手法」です。
ホテルという産業は宿泊にしろ宴会にしろ(そしてレストランも)、需要が高い(お客様が多い)時には供給量(客室や宴会場)が不足するという特性を持っています。
需要が高いときにはお客様をお断りせざるを得ないので、どうせお断りすのであれば「そのホテルにとって望ましいお客様」に優先的にご利用いただくことが収益の拡大につながります。これがRMのもっとも大きな効果なのです。
「そのホテルにとって望ましいお客様」は、短期的利益を優先すれば単価の高いお客様ということになるでしょうし、長期的利益を優先すればリピート性が高いお客様ということになるでしょう。
宿泊では日本国内においても普及しているRMは、もちろん宴会にも同様の効果をもたらします。
さて、宿泊RMでは「うまくいっているかどうか」の指標(KPI)としてRevPARを使用します。RevPARが大きいほどそのホテルの販売戦略はうまくいっていると考えられます。
では、宴会RMではどのようなKPIを使えばよいでしょうか。
現在宴会RMのKPIとして提唱されているのはConPAST(Contribution Per Available Space-Time)という指標です。
RevPARは室料売上を客室総数で割ることで、ホテルの規模の違いなどを吸収して比較検討がしやすいKPIとなっています。 これに対してConPASTは宴会の特性に合わせて以下の特徴を持っています。
- 売上ではなくContribution(貢献利益)を使用する
- 会場の大きさの違いを吸収するため「平米数」で割る
- 使用時間の違いを吸収するため「1日を3回転」で割る
ConPAST =
Contribution:貢献利益 ÷(Square:宴会場の総面積 × Time:3回転)
宿泊では売上に(ほぼ)比例して利益が増える為に売上を使った指標であるRevPARを使うのですが、宴会の場合には宴会の種類によって売上と利益が比例するとはいい難くという課題があります。
例えば会議は売上こそ少ないものの売上のほとんどが利益になります。
婚礼は売上はかなり大きいのですが利益の率は低めです。
その為、売上から主要な経費を引いた「貢献利益」を使うことになっています。
宿泊でもスタンダードルームとスイートルームでは面積が異なりますが、面積の比率はそれほど大きくありません(あるホテルでは7.3倍程度)。またスイートルームの数は少なく影響は軽微と言えます(あるホテルでは3.5%程度)。
一方で宴会場では大宴会場と小会議室の面積は大きく異なります(あるホテルでは28倍程度)し、大宴会場の数も大きくなりがちです(あるホテルでは50%程度)。
この為、面積を考慮しています。
宿泊では(デイユースもあるにはあるが)客室は原則として1日1回転です。
ところが宴会では宴会種別により利用時間はまちまちです。
例えば展示会は丸1日二なることが多いのですが、パーティー等は2〜3時間程度です。
宴会では同じ会場を1日に複数回使うことも珍しくありません。
そこで利用時間を考慮したいので、1日を午前・午後・夕方の3回転に分けて計算することになっています。1時間単位で割ることも考えられるのですが、販売不可能な時間(会場の準備時間等)を考慮する必要が生じますので3回転で割れば指標としては十分だろうということのようです。
ConPASTは宴会種別による利益率の違いや宴会場の規模の問題を吸収した指標ですから、ConPASTが大きくなればそのホテルの宴会場の販売戦略は「上手く行っている」と判断できる訳です。
このConPASTには実はまだ幾つかの問題がありますので、RevPARの様に競合との比較や投資家の判断材料にするには不十分で、単体ホテルや同一チェーン内で使用するKPIと考える方が良いというのが亜欧堂の見解です。
- 貢献利益の算出基準が定まっていない
- 回転数が3回転で十分かどうか議論の余地がある
- 競合間で「利益」を公開できるか
貢献利益は「売上から主要な費用」を引いたものですが、そもそも「主要な費用」とは何をさすのでしょうか。
ホテル業界の標準的な会計基準であるユニフォーム会計にも現時点では「貢献利益」の定義は見当たらないようですので、業界としてといういつの算出方法が決まっていないと考える方が良いようです。
この為、単体ホテルや同一グループ内では貢献利益の算出方法を統一できますが、競合ホテル間では果たして同じ算出方法なのかという疑問が残ってしまうのです。
1日を3回転で良いかというと、一部には2回転で良いというホテルもあれば、婚礼を1日3回転させるので朝食も含めると4回転が必要だと考えるホテルもあるようです。
また、客室総数がホテル毎に異なる様に回転数もホテル毎に変わっても良いと考えることも出来ますが、「そのホテルにとって妥当な回転数を外部から判断できるか」という問題が出てきます。
KPIは妥当性を検証できる方が良く、客室総数は外部から検証もしやすいのですが、回転数は確認がしづらく「うちは宴会場で朝食やりません!」と宣言することで故意にConPASTを大きく見せることが出来そうなのです。
こう考えると回転数も、単体ホテルや同一グループ内では算出方法を統一できますが、競合ホテル間では果たして同じ算出方法なのかという疑問が残ってしまうのです。
宴会RMはまだまだ発展途上ですので、業界統一基準が出来る等すれば上記の問題もなくなるかもしれません。
いずれにせよ単体ホテルでは有効な指標なので、押さえておく方が良いでしょう。