RMのセオリー / 直前の値下げは失敗と考える
レベニュー・マネジメント(RM)を実践するにあたり、毎日の業務の中で重要度が高いのが「需要予測に合わせて客室をいくらで販売するべきか?という料金設定です。
需要が高いと予測できれば料金も高く販売する、需要が低ければ料金は安い方がいい・・・というのは誰しも分かりやすいことだと思います。しかし実際に予約が入りだすと、思っていたより予約がのびないので料金を下げてなんとかしようとする、というケースに直面している方も多いのではないでしょうか。
RMのセオリーでは、「直前の値下げは失敗」と考えます。
直前の値下げが失敗である理由
なぜ直前の値下げは失敗か、その理由は、直前で値下げするくらいなら「最初からもっと安く販売すればもっと予約が多く受注できていたはず」と考えるからです。
お客様がそのホテルをなぜ選ぶのかと言えば、それぞれのお客様によって様々な選択理由があるのでしょうが、それでも共通している傾向として「価格」の影響を抜きに考える事は出来ません。
であれば、高価格で販売していた時期にもっと安価な価格で販売すれば予約は増えるのです。
もう一つの理由は、お客様の傾向によって予約する時期が異なるというものです。
簡単言えば、価格に対して敏感なお客様は早い時期に予約する傾向があり、価格に対して許容度が高いお客様は直前に予約する傾向がある、というものです。
表にまとめると下記の通りとなります。
お客様の種類 | 価格に対して | 日程に対して |
早く予約するお客様 | 敏感 | 受容的 |
直前に予約するお客様 | 受容的 | 敏感 |
もちろん、上記とは異なる特性を持っているお客様もいらっしゃいますが、概ね上記の傾向と考えてよいでしょう。
価格に対して敏感なお客様は、最近では航空券にとどまらず様々なものが「早割」でお得に購入できますので、予約の時期が早い傾向にあります。
価格に対して受容度が高い、つまり懐に余裕のあるお客様は日程に敏感です。直前にスケジュールが決まったりするので、多少の価格は気にしない傾向です。
ただし直前に予約するお客様も、同じ部屋なら安い価格でも構わない訳です。
つまり、直前に安く販売する事で高単価でも構わなかったお客様を低単価で受注する事になるのです。
この事を検証するには、同じ需要が想定される日に「最初から安く販売する」方法と「直前で値下げする」方法を取った結果を比べてみるといいでしょう。
では、直前で値下げする失敗をなくすにはどうしたら良いのでしょうか。
そのポイントは以下の通りです。
- 団体のオンハンドがある場合、その団体の予約区分からWashの可能性を予測する
- 価格の初期設定の方法を見直す
団体のオンハンドがある場合
直前の値下げにつながる最も多い原因は、団体があってオンハンドが高い為値上げをしたが、その後団体がキャンセルとなってしまい慌てて値下げをする、というものです。
RMは、「需要予測を基に 販売を制限する事で 収益の拡大を目指す 体系的な手法」ですから、予測ではなく現状である「オンハンド」を基に判断するのはお薦めではありません。
団体のオンハンドがある場合には、仮予約なのか(仮予約なら受注の見通しが高いのか低いのか)、催行は確定しているが利用室数は確定していないのか、ネームリストを入手する等して利用室数まで確定しているのかという、
団体予約区分を基にWashを予測してから販売を制限するべきなのです。
※ 関連:レベニュー・マネジメント視点の団体管理
価格の初期設定方法を見直す
団体が入っていないにも関わらず直前で値下げをしている場合には、販売価格の初期設定(つまり販売開始時点での価格設定)が高すぎるという事が考えられます。
これを予防するには、以下のステップで販売価格の初期設定を決めていただく方が良いでしょう。
- 同じ傾向を示す日(TOD: Type Of Day)をパターン化します。
- TOD毎にそれぞれのマーケットセグメントに対して、室数、ADR、DORを調べます。
- 販売上の反省をふまえて、上記のセグメント別室数・ADR、DORを修正します。
- 各マーケットセグメントのDORから、1名利用と2名利用の割合を推定します。
- 10室のシミュレーションでADRにあう1名利用料金と2名利用料金を設定します。
RMでは共通の傾向を示すTODを重視します。
TODを最も簡単に捉えるには、月別曜日別に考えていただくのが一番です。
もちろん曜日別だけが共通の傾向ではなく、水曜日と木曜日を同じTODとして捉える事もあれば、同じ土曜日でも「野球の試合がある土曜日」と「そうでない土曜日」を異なるTODとして捉える事もあります。
とはいえ、月別曜日別に捉えるのは初心者向けであり8割方正解と捉えてよいでしょう。
TOD毎に各マーケットセグメントの室数、ADR、DORを分析したら、ブッキングカーブなどを参照して販売上の問題点や失敗を踏まえて「こうしたらより収益が拡大する」方向で修正をします。
例えば、安価な団体を受注しすぎて比較的高単価な個人を断っていたのだとすれば、団体の受注を押さえて個人の受注を増やした方が収益は拡大します。
亜欧堂はこの作業を「販売の設計図」作りと呼んでいます。
修正が終われば、DORを基に1名利用と2名利用の割合を推定します。
方法は簡単で、1室あたりの利用人数で春DORは、小数点以下の数値が2名利用の割合なのです。
例えば DOR 1.3 の場合は、3割が2名利用だと考えてほぼ間違いありません。
この方式が使えないのは、旅館やリゾートホテル等3名以上利用の割合が多い施設です。
このタイプの施設は、利用人数別の利用割合を算出できるかどうか、宿泊システムをご確認ください。宿泊システムからデータがでない場合は、TLXからのデータで分析可能です。(ただし宿泊者全体のデータでないなど完全なデータではないことにご留意ください)
最後に10室のシミュレーションをします。
DOR1.3の場合は7室が1名利用 3室が2名利用と設定し、これまで考えていた販売価格を人数毎の部屋に設定します。
そうすると販売価格の平均値がADRとなりますので、販売の設計図で考えたADRと比較します。
販売の設計図で考えたADRと一致していない場合は、これまで考えていた販売価格では目指しているADRには習いないという事になります。
その場合は販売価格を変更してシミュレーションを繰り返し、目指しているADRに近づけていくのです。
なお、オンハンドにあわせて販売価格を吊り上げていく「オンハンドプライシング」を実施しているホテルは、上記のシミュレーションから若干低い価格を初期設定にすると良いでしょう。
まとめ
RMのセオリーでは「直前の値下げは失敗と考える」のですが、失敗を少しでも取り戻す為に止むを得ず直前の値下げをする事は禁止でもありません。
反省を基にこの失敗の数を減らす事が出来れば、必ず増収増益に繋がります。
RMは「継続改善」のプロセスなのですから。
- 直前の値下げは失敗である
- 団体が入っている日に販売価格を上げたくなったら、団体予約区分を確認する
- 10室のシミュレーションを活用して販売価格の初期設定を見直す